定例研究会の講演「医学研究倫理と日本の医学犯罪」の抄録

2022/09/13

研究集会・研究会

  第49回定例研究会(10月23日午後1時~午後5時、オンライン)の講演「医学研究倫理と日本の医学犯罪」(土屋貴志・大阪公立大大学院文学研究科准教授)の抄録は以下の通りです。

◎第49回定例研究会の開催要領
 https://war-medicine.blogspot.com/2022/07/491023.html
◎研究会参加と一般演題申し込み(一般演題は9月15日締め切り)


講演「医学研究倫理と日本の医学犯罪」(抄録)  土屋貴志氏(大阪公立大大学院文学研究科准教授)


 「医の倫理」とは医学と医療(診療)の倫理を総称する言葉と理解されるが、医療に関する倫理はそのほかに少なくとも、医学教育、医療経営、医療政策に関する倫理も含む。731部隊をはじめとする石井機関は診療機関ではなく研究開発機関だったので、そこで行われた医学犯罪は主に医学研究倫理の問題である。
 診療は目の前の個々の患者のために行われるが、医学研究・医学教育・医療経営・医療政策は、直接的には他の多くの患者や住民や国民や人類のために行われるのであり、目の前の個々の患者のために行われるわけではない。それゆえ、他の多くの患者や住民や国民や人類のために、時として目の前の個々の患者を「手段」として用いたり「犠牲」にせざるをえない、という構造的な倫理的葛藤を抱えている。
 また、医学研究倫理は「研究倫理」の一つだが、文部科学省は「研究倫理」を研究不正を防止することとしか捉えていない。しかし「研究倫理」が扱うべき問題は、研究に対する圧力(利益相反や出資者の意向など)の適正な処理、 研究過程における被験者(研究対象者)の保護、研究者の安全確保、実験動物の虐待防止、環境汚染の防止、研究費の不正使用の防止(「コンプライアンス」)、研究成果の発表における不正防止、研究成果としての製品を使う消費者の保護、研究成果の利用(兵器への転用など)に対する責任も含む。こうした「研究倫理」の中で、15年戦争期の日本の医学犯罪はとりわけ「被験者保護」の問題である。
 ナチス・ドイツや米国で行われたような被験者の著しい人権侵害を防ぐために、研究計画の事前審査や、被験者のインフォームド・コンセントを取得する義務などが、国際的に定められてきた。しかし日本の医学界でこれらは、国策として医学研究を推進する際に「外圧」により要求されるようになった面倒な手続きとしか受け取られていない。
 15年戦争期に世界史上最悪とさえいえる被験者虐殺に手を染めていたことを認めず、反省も謝罪も行わないなら、日本の医学界が「医学研究倫理」や「被験者保護」についていくら語っても、口先だけの茶番でしかない。