第50回研究会の講演と一般演題の抄録

2023/03/02

研究集会・研究会

 第24回総会・第50回定例研究会(3月26日、大阪府保険医会館5階会議室+Zoom会議室)の講演と一般演題の抄録は以下の通りです。
 また総会・研究会の開催要領をこちらに再掲しました。昨年12月12日のお知らせから若干変更、追加があります。総会・研究会への参加申し込みはこちらです。

特別講演
731部隊と関連した韓国での研究状況および課題 731部隊の究明が韓国にも重要な理由
崔 圭鎭氏(仁荷大学校医科大学副教授)


 731部隊は韓国人にとって“身近”な存在だ。731部隊が行った実験により犠牲となった人々を指す「マルタ」という言葉が日常生活でもごく当たり前に使用されている。しかし、いざ韓国で731部隊に関する正確な情報を得ようとすると、非常に困難を極める。「731部隊」というキーワードで検索をして出てくる数多くの情報のうち、731部隊がどのような組織であり、なぜ人体実験を行ったのか実証的な接近はおろか、論理的に説明している文章を探すのも容易でない。残虐な写真で人々を扇動し、単に朝鮮人をマルタとして利用した「狂気じみた集団」として描写しているものがほとんどだ。医科大学における医療倫理の教育も同様である。ただ731部隊を民族主義的に「消費」するばかりで、「正確に」この問題を知るための努力は全くしていない。こうした現象はある意味歴史教育だけでなく、医科大学で731部隊について一切触れない日本とは真逆であると言えるだろう。しかし、見かけが多少異なっているだけで、両者ともに731部隊に対する究明がしっかりと行われていないが故に起きた現象である。
 西洋の場合、ニュルンベルク裁判をきっかけに医療倫理はもちろんのこと、研究倫理全体の基礎が整った。もちろんタスキギー梅毒実験など数多くの事件がその後起きたものの、それでもなお一歩ずつ研究倫理を発展させることが出来たのはニュルンベルク綱領とヘルシンキ宣言という基盤があったからだ。こうした綱領と宣言は普遍性を持っているものの、あくまで「ナチスの医師たち」が犯した非倫理的行為に対する究明と反省に基づいているため、その影響力はアジア諸国に十分に及ばなかった。731部隊に対する究明が早急に行われるべき理由がここにある。731部隊に対する真相究明が土台となって初めて韓国も民族主義的な消費を超え、本当の意味で研究倫理を確立することが出来るためだ。


一般演題
1.満洲医科大学の終焉と感染症対策
末永恵子(福島県立医科大学)


 敗戦後の混乱のなか満洲引揚げの過程では日本人約24万人が犠牲になった。この中で感染症による死亡者は約18万5千人と言われる。満洲からの引揚げが本格的に始まったのは1946年5月である。この間、感染症が蔓延する中、満州医科大学の医師・看護師が、瀋陽(旧奉天)で日本人居留民を救うため、治療を行っていたことが放送された(「満州 難民感染都市知られざる悲劇」、株式会社 テムジン製作、BS1スペシャル  NHK、2021年3月28日)。  
 報告者はこの番組に関わったが、満洲医科大学の感染症対策について卒業生の回想を辿りながら、より詳細に記述したい。そうすることで、旧奉天における日本人居留民の実態も明らかにできると思う。なお、以下のような時期区分によってまとめる予定である。
第1期(1945年8月~10月)…難民収容者の疾病・負傷の治療に重点
第2期(1945年11月~1946年2月)…発疹チフス防疫に重点
第3期(1946年3月~4月)…肺ペスト防疫に重点


2.続・飯田市平和祈念館で起きている事態に関して
原 文夫(元戦医研事務局次長)


 昨年10月23日の戦医研研究会で、私は長野県飯田市の平和祈念館が、731部隊に関する証言パネルなど「加害の史実」の展示を見合わせている問題を報告した。その際、私は直前の10月21、22日に他団体のメンバーと共に現地・飯田市を訪れて市(教育委員会)へ要請を行い、また市平和祈念館を視察して祈念館の資料収集に関わってきた市民の方々と相談会を持ったことも追加報告した。
 今回の報告では、これらと若干重複しつつ、その後4か月間の展示をめぐる動きおよび現状を紹介する。そして重ねて飯田市が731部隊など加害の史実の展示を拒んでいる「理由」に道理の無いことを検証したい。この問題は一地方の小都市で起きているひとつの動きであるが、平和が揺らぎつつあるかのような今、わが国の平和博物館の在り方、そして国の行方にも少なくない関わりをもつのではないかとの危惧が拭えない。


3.活動報告「平和のねがいと戦争」―731部隊と15年戦争―パネル展について
戦争と医学医療研究会北陸支部
〇佐藤公男(石川県平和委員会理事)、横山 隆、莇 也寸志、池田治夫


1 企画の思い
 ウクライナ戦争で、核兵器と生物化学兵器の使用可能性をロシアが公言。今、日本が中国大陸で行った細菌兵器の開発と人体実験の再検証が必要。731部隊の戦争犯罪の事実、戦後もその闇が続き、問題の根源がどこにあるか、展示を通して市民と共に考える。
2 目的
1)加害の歴史の理解
2)731部隊と金沢に関する資料を展示
3)医学者による人体実験や細菌戦の実行から「医の倫理」を問い直し、若者の「学びの場」とする
3 実際 
1)新規パネル30枚と資料展示、記念講演
2)実行委員会形式で13団体と26個人の賛同あり。期間は2022年7月27日~8月1日、会場は石川県庁1階展示コーナーと会議室
4 結果
1)マスコミ報道とチラシで10〜80歳代まで422人来場、講演会120人来場
2)会場アンケート回収49枚
3)新聞5社・テレビ局3社で報道
4)11団体と61個人から40万円超の募金(経費44万円)
5 意見 
◆議論を重ね、短期間にパネルを完成させ開催したことは貴重な経験
◆若者から戦争体験者まで来場され、マスコミの宣伝効果あり
◆県知事が初日に見学など県庁内開催の利点あり、県庁の対応も好意的
◆毎年7月31日前後を「731の日」とすることを提案