第51回研究会の一般演題の発表者と抄録

2023/10/22

研究集会・研究会

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1.100部隊の真相にせまる旧隊員からの匿名情報―「100の会」名簿と「紫陽」探索

○小河 孝(元・農林水産省家畜衛生試験場)、加藤 哲郎(一橋大学名誉教授)


 2023年夏、三友一男『細菌戦の罪』や私たちの共著『731部隊と100部隊』で語られなかった真実を伝えたいと100部隊旧隊員の「遺言」と遺品を整理した2回の匿名情報の提供があった。

 旧隊員は「100の会」という隊友会の一員で、この会は1977年以降18回以上開催、1995年には生存497名、物故179名、戦死9名の計685名と生死不明者372名の詳細な名簿を作製していた。

 ソ連参戦・日本敗戦時に100部隊は三班に分かれ敗走した。①8月12日、一般隊員の婦女子約500名が新京を早朝出発、14日に北朝鮮の定州で停止されそのまま抑留、多数の死亡者を出した。➁若松有次郎隊長や山口本治少佐など上級将校家族を含む50人は8月13日出発、無事帰国した。③保坂安太郎中佐以下約700名は部隊を破壊後8月16日出発、定州を通過して京城に到着、釜山経由で帰国した。1945年に定州残留家族を救済する「家族援護会」が結成された。犠牲者には紀野猛や西村武、情報提供の旧隊員の家族も含まれていた。

 三友一男『細菌戦の罪』(泰流社、1987年)のもとになった自分史『青春如春水』には人体実験の一節があったが、単行本と陸軍獣医部関連雑誌『紫陽』では削除された。これらの新資料をもとに100部隊の「人体実験」疑惑をGHQに告発した紀野・西村の動機も再検証したい。


2.抗日戦争中中国下層民衆の記憶の再現:『大賤年』オーラルヒストリー記録におけるGIS技術の応用

呂 晶(南京大学民国史研究センター 副主任、助教授)


歴史背景
1943年以来、中国華北の山東省西部にある大運河/衛河の沿岸地域に、昨年からの旱魃が続き、農村に飢饉が増々酷くなり、多くの住民が故郷から逃げた。夏になって、突然大雨で洪水に覆われ、其の内に、コレラが急速に激しく広がりました。村に残る飢えっている住民が疫病に対して、殆ど対応策を持たず、死者は数十万人以上も上った。
その地域は日本軍の北支な那方面軍の準治安区に当たり、八路軍は地元の民衆を組織し、日本軍の支配を抵抗していた。しばしば、近く駐屯する日本軍が“掃蕩“しに来、行たり来たり中国の八路軍と遭遇し、戦闘もあった。その急速のコレラの大面積広がりが、日本軍による謀略細菌作戦と中国側から疑われ、”山東コレラ作戦”と言われた。

先行研究
2002年8月に、日本の東京地方裁判所で行われた日本軍細菌戦による中国人細菌戦被害者たちの裁判が判決より、加害と被害事実を全面的に認定され、その影響で、年末に、中国国内の学者、研究者、記者等が、”山東コレラ作戦”を調べ始めた。その内に、日本の研究者、弁護士も関心を寄せました。
2006年に、山東大学で大学生たちが魯西細菌戦歴史真相調査会を組成し、フィールド調査を始めた、衛河地域10県(1600㎢面積)の郷鎮に足を運び、当時平均年齢81歳のコレラ経歴者3000人を聞き取り、録音した。2011年にフィールド調査を収まり、2017年に、調査報告『大賤年』を中国文史出版社(中国全国政治協商会議専属出版社)より、出版されました。

研究紹介
2019年に、南京大学民国史研究センター呂晶助教授(報告者)が院生たちの研究チームを組成し、『大賤年』の調査チームメンバーと、南京大虐殺記念館の“国家記憶と国際平和研究院の研究基金で、『1943年日本軍の山東コレラ作戦研究―GIS Systemによる歴史再現』の研究項目を発足しました。
『大賤年』のオーラルヒストリー記録を基本材料とし、GISと統計解析で、個人記憶の偏さに気づき、地方史の記録と照らしながら、新たな分析を行いました、特に、日本軍の活動と地元コレラの発生の関係を観察した、それに基づいて、戦争中人為的な災害に巻き込まれた伝統的な農村の下層民衆が、更に、自然災害に覆われの悲惨な歴史現場を時空で再現するGISの案を構成しました。


3.南方軍防疫給水部―シンガポール岡9420部隊に於ける史料研究

林 少彬(独立研究者)、王 選(独立研究者、NPO法人731部隊・細菌戦資料センター共同代表)


 初めてのシンガポールと中国の日本細菌戦歴史研究者が連携で行った研究と調査として、余り知られていない南方軍防疫給水部(通称岡9420部隊、在シンガポール)の歩みを1942年5月南京での臨時編成される段階から、“ホ号”作戦の関わりや、そして終戦で日本に引揚するまで、各国の資料を集め、主にアジア歴史資料センターの一次史料を細心に整理した上での試作です。
 関東軍防疫給水部、通称731部隊の姉妹部隊と位置付けされる岡9420部隊は、大戦中、東南アジアの戦場の各地で支部を持ち、細菌戦活動、例えば、鼠の飼養を行い、日本軍の戦略や戦場情勢に応じて、派遣隊を派遣する本部機能を持っていて、又、独自の南方軍防疫給水部業報丙シリーズを一元的管理しました。戦中状況や戦後の隠蔽工作により史料は不完全であるが、本研究は南方軍防疫給水部の全容を突き止める基礎的な足場になると考えます。


4.「日本医学会創立 120 周年記念事業」の意義 ~日本医学会と15年戦争~

西山 勝夫(滋賀医科大学名誉教授)


 日本医学会は昨年2022年に創立120周年を迎えた。その記念事業として、2022年4月2日に開催した記念シンポジウムにおいて発表した提言に、さらに日本医学会に加盟する全ての分科会から寄せられた意見を可能な限り取り込んだ最終版「未来への提言」を取りまとめた。
 同72頁には「わが国も、これまで医学・医療の名において、⼈々に⼤きな犠牲を強いた過去を持つ。戦時中 に⽯井機関と七三⼀部隊で中国⼈やロシア⼈等を対象とした⾮⼈道的な⼈体実験が広範に⾏われ、この研究には当時の⽇本の医学界をリードしていた⼤学教授たちが多く参加していた事実がある。その後も、ハンセン病患者に対する強制隔離や優⽣⼿術を⾏った事件や薬害エイズ事件等の重⼤ な事例、さらには、『旧優⽣保護法』に象徴される⽣命倫理原則や基本的⼈権、インフォームド・ コンセントの蹂躙が起こった。私たちは、こうした過去の過ちに学び、将来にわたって⾮倫理的な状況が再び起こることのないよう、私たち⾃⾝の倫理を確固たるものとし、時には流れに抗うことも医学に携わる者の責務であることを改めて認識する。
 日本医学会は、医学・医療の進歩が、患者と社会の理解および信頼と合意を得て、社会の基本的価値と倫理規範に合致した形で提供されるよう、不断の努力を払うことを決意し、現在そして未来の医学・医療が、患者と人々に大きな幸福と福祉をもたらすことを希求する。」という提言がある
 研究会では同提言の意義について論じたい。